いつか孵る場所
「赤ちゃん、中々産まれないね」

12月も半ばを過ぎた日曜日。

桃子はバイクに乗ってフラリ、と遊びに来てくれた。

透と至は学会で二人ともいない。

「うん、ひょっとしたら、透とまだ二人でいたいって言ったからかも…」

ハルの顔が曇る。

退院してからすっかりお腹も張る事がなく、普通に過ごせている。

「赤ちゃん、遠慮しちゃったのかも。
お父さんとお母さんがあまりにもラブラブだから」

桃子は嬉しそうに笑って紅茶の入ったカップを手にする。

「遠慮、する事ないのにね」

ハルはお腹を触った。
ゆっくりと動いているのがわかる。

「確かに二人きりじゃなくなるのは寂しいけれどね。
でも、その分、楽しいことも増えると思う」

桃子はうんうん、と頷く。

「きっと赤ちゃんはお父さんとお母さんの事が大好きなのね。
もう少しだけ二人の時間を楽しんでもらって、あとは自分がイッパイ愛されようと思っているのかも」

桃子の笑顔にちょっと癒された。

「でも、二人だけの時間って中々ねえ…」

「透さんは小児科で特に忙しいからね。
まだ至さんはそれほどでもないし…。
私達は結構、二人で過ごしていると思うけどね」

「そっか~」

「ところで、透さんは病院、どうするか言ってた?」

桃子はソワソワしながらハルに聞く。

「…やっぱり今の病院にしばらくはいるって」

「そうなんだ」

残念そうに桃子は紅茶を飲んだ。
至は来春3月末で病院を退職して、桃子の実家が経営している病院長に就任する。
そこへ透も誘われていたが、迷いに迷って常勤は断った。

「あ、でもお兄さんに条件を出したとは聞いたけど」

「なになに?」

「小児科の夕診だけって。非常勤で」

「そうなの!?」

桃子は嬉しそうに立ち上がった。

「うん、それは紺野と話が付いたらしいよ」

「至さんも辞めるとは言っても、紺野の非常勤になるからねえ。
専門外来を週2日午後から受け持つって言ってた」

来年からは周りも色々と忙しくなりそうな予感がする。



「次、会う時は産まれていると思うけど、とにかく頑張ってね!!」

桃子はハルと夕食を共にして夜8時くらいになるとようやく重い腰を上げた。

「うん、また会いに来て」

「もちろん!」

桃子はハルの頬を両手で触ると

「楽しみにしてる」

ニコニコ笑って手を振るとヘルメットを被った。
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