いつか孵る場所
その瞬間、ベッド傍の机の上でスマホが揺れた。

「あ~あ…」

この時間なら病院からだ。
透は残念そうにベッドから起き上がった。

ハルも少し、いやかなり残念だ。
今夜くらいは一緒にいたかった。

「はい…はい、では行きます」

通話を終えると本当に申し訳なさそうに透はハルを見つめて、ただ

「ごめん」

と一言。

「いってらっしゃい」

ハルは出来るだけの笑顔を作った。
透は頷くとすぐに服を着替え、部屋を出た。

- あ~あ… -

ハルも心の中で呟く。

また一筋、キラキラ光るものが流れる。

- 私ってこんなに弱かったっけ -

お腹をさすりながら思う。
そして透がついさっきまでいた場所に手を当てる。
まだ、温かい。
ハルはそこに少しだけ体を移動させて横になる。

少しでも、その温もりを感じていたかった。





透は病院に着くと救急外来へ急ぐ。

今日は小児科の輪番制で紺野総合病院が夜間を受け持つが今日の小児科担当は黒谷。
若干不安を感じていたがそれは的中した。
彼女では判断が難しい患者が救急車で運び込まれてきたのだ。
電話で指示を出そうと思ったがそれを止めて自分の目で確かめよう、と思ったのだかそれで正解だった。



「本当にすみませんでした」

明け方になってようやく救急外来が落ち着いた。
今夜は次から次へと患者が運び込まれる。
昨日から急に寒くなったからだろうか。
風邪の症状が多いが、中には点滴が必要だったりする子もいたり、嘔吐が激しかったりする子もいる。
赤ちゃんも多かった。
子供の事だから不安になる親も多い。
一つ間違えれば命取りになる事もある。
透もそのまま診察に入ることにした。

「いいよ、気にしなくても」

黒谷の謝罪に透は手をひらひらさせた。

「ようやく奥さんが退院したのに…でも先生しか頼る人が居なくて」

「…仕方ないよ、そういう時もあるから。
妻にはまた別のところで埋め合わせするし」

今日は本来、他の人が呼び出される日なのだが、電話をかけても出なかったらしい。
どこの会社でもそういう人がいるように医師でも、そういう人はいる。
透をしては黒谷が自分を頼ってくれたことは嬉しい。



「今日はこのままここにいるからまた何かあったら呼んで」

そう言って透は救急外来を出た。
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