大人の恋は波乱だらけ！？

「初めてだ」

「え……」

「俺の小説を読んで、笑顔を浮かべた奴」


そう言って昴さんは自嘲気味に笑う。
その顔の下には悔しさが隠されているんだってひと目で分かった。
私はそんな彼の顔をこれ以上見ていられなくて、彼の顔を隠すように私の体で包み込んだ。


「お……お前……」

「誰も見てないです」

「は？」

「見てないですから、今は泣いてください」


いつか昴さんが私に言ってくれた言葉。
その言葉を今彼に返す。

彼は頑張りすぎていたんだ。
誰にも理解されず、それでも努力して夢を追いかけ続けてきた。
こんなにも長い間、孤独の中で1人で闘い続けてきた。


「誰が……泣くかよ」


昴さんは意地を張っているのか冷めた声で言い返される。
それでも隠しきれず、声が少し震えていた。
私は彼を抱きしめる力を強くして、柔らかく微笑む。


「もう……無理しなくていいんですよ」

「は……？」


訳が分からないと言った様に彼は声を出す。
それでも私は言葉を続けた。


「貴方はもう1人じゃない。
昴さんの小説の素晴らしさは私が知っています。
だから……もう1人で闘い続けなくてもいいんです」

「……っ……」

「私も一緒に闘いますから。貴方の小説が世に出る日まで」


彼の背中をポンポンと叩けば彼は私の腕の中で体を震わせた。


「何でお前は俺の為に……。お前に何のメリットがあるんだよ」


必死に誤魔化そうとしているが、彼の声は僅かに上ずっていた。
それに気が付かないフリをしながら小さく笑みを零す。


「メリット……ですか？
んー……貴方の小説が沢山の人に読んで貰えると私も嬉しいですから」

「……何でお前が嬉しいんだ。お前には関係ねぇだろ……？」

「だって……。私は……貴方の小説が好きだから」


私の言葉が決め手となったのか昴さんは私の腕の中で泣き始めた。
体を震わせながら、必死に隠す様に声を押し殺して。
それでも時々漏れる声が私の心に鋭い痛みを与えた。