SECRET COCKTAIL
バーの名前が書かれたコースターを無言で私の前に差し出して。
無言のまま、その上にグラスを置く。
ほら、やっぱり。
自然と緩む口元を隠せずにいると、彼は私にチラリと視線を寄越して。
僅かに眉を顰めてから、そのまま厨房へ姿を消した。
それだけで幸せな気分になれる私は、物凄く単純だ。
彼が乾杯に付き合ってくれることなんて滅多にないから、いつも通り目の前に置かれているグラスを、そのまま口に運ぶ。
「うまっ」
良く冷えたビールが喉を流れて行くと、何とも言えない爽快な気分になれる。
仕事の疲れも吹き飛んで行くような気がする。
この苦みのある液体に美味しさを感じてしまうなんて。
初めて飲んだ時からは考えられない。
あの頃より、大人になったのだという事を実感してしまう瞬間だ。