強引な彼の求愛宣言!
「こ、こんなとこ、見えちゃうじゃないですか!」

「そうだなあ、見えちゃうなあ。さて、どうやって乗り切りますか? 窓口のお姉さん」



悪びれもせずにっこり笑顔を浮かべる彼を、ぽかんと見上げる。

我に返った私は、赤い顔のまま目の前の男を睨みつけた。



「……もし私が引っ越すことになっても、東明不動産さんには頼みません!」

「それは残念。サービスするのに」

「要りません!」



なんだか的外れな会話をして、私は今度こそ車を降りた。

乗り心地最高でしたレヴォーグくん、ありがとうさようなら。

もう二度と、きみに乗ることはないだろうけど!


武藤さんが(たぶん悪そうな笑顔で)私の後ろ姿を見送っていることはわかっていたけど、絶対に振り返らなかった。

なんなの、武藤さん……! これなら電話でやり取りする声に憧れていただけのままの方が、ずっと私の心は平和だった!


思い出すのは、意地悪な微笑み。声。イタズラなくちびる。

綺麗な偶像の武藤さんは、もういない。



『俺の声が好きなんだろ?』


『……麻智』



なのにどうしても、頭の中は彼のことでいっぱいで。

私は首筋についているであろう赤い痕を指先でなぞりながら、熱い息を吐くのだった。
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