強引な彼の求愛宣言!
……自分が、1番よくわかってるくせに!


カッとして余計なことを言いそうになってしまったのを、すんでのところで飲み込んだ。



「ちょっと……ヤケドを、してしまいまして」



ガーゼを隠すように手で触れながら、私はいたって自然な笑みを浮かべた。

その答えを聞いた武藤さんも、変わらず微笑みを崩さずに。



「へぇ、そうでしたか。痕、残らないといいですね」

「ええまあ。それは大丈夫かと思います」

「ならよかった。お大事に」

「……はい。ありがとうございます」



傍から見ればおそらく和やかに。そして当人からすると寒々しい会話を繰り広げ、今度こそ応接室を出る。

私から視線を外してすぐ、武藤さんは何事もなかったかのように三木くんと契約についての話を再開していた。

対する私はおぼんを戻すため給湯室に向かいながらも、脳内ではずっと混乱していて。


……意味、わかんない。どうして武藤さんは、こんなふうに私の心を乱すようなことをするの?

もしかして──なんて。そんなうぬぼれた予感を持てるほど私と彼の間に関わりはないし、自分に自信もない。


私は、どうなんだろう。ずっと武藤さんの素敵な声に憧れていて、でも自分ではつり合わないと思っていた。
 
そして勝手なイメージで思い描いていた彼と本当の彼がかなり違うことを知っても、変わらず──いや、むしろ今まで以上にドキドキしてしまっていて。

このドキドキは、恋なんだろうか。それとも、実は意地悪で予測不能な彼の言動に、ただ動揺しているだけ?


ああ、わからない。わからないけど、首筋につけられたキスマークもこうして仕事中に顔を見られたことも……心の奥底では『嫌』だと思っていないことを、さっき会話をしたときに自分でも気付いてしまった。



『こんにちは、深田さん』



……名字、じゃなくて。あの朝みたいに、また名前で呼んで欲しいと思ってしまう。

もう、きっと。次にあの声で甘くささやかれたりなんかしたら、私はたぶん、抵抗できない。

やさしい笑顔も、意地悪な表情にも。もう同じくらい、私の心は奪われてしまっているのだ。
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