強引な彼の求愛宣言!
《深田さんは、かわいいね。素直で、俺が話しかけると、すごくうれしそうにしてくれて》



武藤さんは、知っているのだ。私が自分に、少なからず好意を持っていること。

だから、もし“そういう”誘いをしたとして、断らないことをわかってる。……断れないことを、ちゃんと知ってるんだ。


……だけど。



「(……それでも、いい)」



時折ネオンに照らされる整った横顔を盗み見ながら、ただ漠然とそう思う。

このひとになら、何をされてもいい。いっそ危険なくらいに、強く、そう思った。


私だけのものじゃなくていい。もてあそばれたっていい。

この手が、声が、わずかな時間の中でも自分を欲してくれるのなら。

盲目的なのは、自分でもわかっていた。それでも止められないくらいに、強い引力を感じていることも。



「……武藤さん」

「ん? なに?」



小さく名前を呼ぶと、一瞬こちらに視線を向けて応えてくれる。


──『すきです』って、言いたい。

それでもその言葉が彼にとって重たく感じられてしまうのがこわくて、のどの奥でつかえた。



「……なんでも、ないです」



この夜の魔法を、自分から、解きたくはない。

結局こわがってばかりの私は、初めて彼に、嘘の笑顔を浮かべたのだった。
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