王子の初恋は私な訳ない
ねえ、名前で呼んで?
その日の放課後、私は苦手なバスに乗っていた。
「あんたさー、帰りも電車だと多分まちぶせされるよ?」
と澪ちゃんに言われて悩んでいると
「一緒に帰ろ?」
と王子が誘ってくれたからだ。
別にあの子が嫌いな訳ではないのだけど
「そのつもりないなら彼女のためにも♪」
とももりんに言われ、
ドキドキしながら王子に頼んだ。

いやまさかまさか
1人でバスに乗れないからではない。
まさかまさか断じて。

バスは電車よりも人は少なく
だからと言って座れる訳でもなかったが
王子がすぐそばに居て落ち着かない。
私の鼓動の速さが伝わってるかもしれないと
思えば思うほどにもっと早くなる。

それに、周りがおかしい。
王子と女の人が居たら烈火のごとく
怒り狂う女子が続出すると言うのに
私がそばに居ても平和だ。

「どっちがタチで...」
「いやあ、でも...リバであって欲しくない?」

なんて会話が聞こえる。
...おかしい。
どう考えたっておかしい。
なんか聞いた事ある言葉だけど…まさか...
いや、私男じゃない!!!!

そんな事を考えながら乗っていると
不意に王子が私の手を引いた。
どうやらここで降りるらしい。
悲鳴が起きると思っていたが
何故か拍手されてしまった。

バスを降りた後も王子は手を離さなかった。
そのまま私の手を握り一緒に歩いた。
「ねえ、王子...」
するとこっちを向いて少しキョトンとした。
「あれ?私変な事言った?」
慌ててそう返すも表情は変わらなかった。
王子の家の前で止まるも、王子は手を離さなかった。
「家...来る?」
王子がそう言った時私の手を握る力が少し強くなった。
断る理由も思い浮かばなかったので頷いた。
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