かわいい君まであと少し
 駅へ向かう間、望月課長のお見合い相手の顔を浮かべた。
 かわいい人だよね。二十三歳だっけ、私より四つも下か。私も五年前ならかわいかったのかな。いや、そんなことないか。
 結局、そんなことを考えるのも空しくなって何も考えないようにした。
 それを逆らうように望月課長の「振られたけど、諦めないことにした」という言葉が蘇った。
「うそつき」
 信号待ちで足を止めたとき、ぽろっと唇からこぼれた。
 誰にも届かない「うそつき」は、誰にも聞かれることもなく雑踏に紛れてしまった。

 望月課長からの告白を断って十日ぐらい経った時のことだった。
 社内で“望月課長が常務の娘とお見合いをした”という内容の噂が流れた。しかも、その相手とお付き合いをしているらしいということまでが噂になっていた。
 誰もが半信半疑だった。望月課長はその手の話はほとんど断っていた。ただ立場上どうしてもという場合は、とりあえずお見合いには行って角が立たないように断るというのが通常だ。
 予想外の展開に誰もが驚いている。もちろん望月課長を狙っていた子たちは、それなりにショックを受けているようだった。
 その噂が流れ始めた頃から、お見合い相手である常務の娘さんが仕事帰りの望月課長を待つ姿があった。
 彼女を見た子たちは、みんな敗北宣言をせざるを得ない。
 柔らかそうな黒髪に、リスのようにクリっとした目。小柄ながらバランスの取れた体型。

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