自殺という名の地獄

「あなたは就職した会社で１人の女性と出会うことになるのです。そして、会社の飲み会での席で意気投合したのをきっかけに、次第にあなた方の絆は深まり、付き合い始め、付き合い始めて3年が経った頃にはあなたから彼女にプロポーズをして、めでたく結婚し、子宝にも恵まれ、幸せな家庭を築けるはずだったのですよ。あなたが自殺なんて馬鹿な真似さえしなければ、ね」
「嘘だ。そんなの嘘に決まってる」
俺は思わず声を荒げた。信じられなかった。いや、心のどこかで信じたくない自分が、自分が犯した取り返しのつかない過ちから目を背けたい自分がいたのかもしれない。そんな俺に男は容赦なく言葉を浴びせ続ける。淡々と。
「どう思うかはあなたの勝手です。ですが、これがあなた自身が捨てた未来なのです。自分が犯した過ちから目を背けてはいけません」
俺は乱暴にメガネを外すと、メガネを男に向けて投げつけた。メガネが男に当たり、乾いた音を立てて落ちる。
「もういい。もう何も聞きたくない。何も見たくない」
男は小さく溜め息をつくと、メガネを拾い上げ、懐にしまった。
「分かりました。もう何も申し上げません。どちらにせよ、もうあまり時間もないことですし」
俺はもう喋る気力すらなかった。ただただ呆然と立ち尽くしていた。まるで抜け殻のように。
「本来であれば死んだ者には成仏する前に会いたい者に会える権利、いわゆる夢枕に立つ許可が下りるのですが、あなたのような自殺者にはその許可も下りません。あなたに与えられるのは無限に続く"自殺"という名の地獄のみです。もう会うこともないでしょう。それでは、さようなら」
男はそう言い残すと、霧のように消えていった。俺の中で何かが割れる音がした。次第に何も考えられなくなっていった。もう何もかもどうでもよくなった。
俺の中に残ったのは割れた風船の残骸だけだった―。