私のエース
 私はみずほに女装した磐城君を見たことを告白していた。
だって磐城君、物凄く可愛かったんだ。
そんな秘密を独り占めには出来なかったのだ。


そして二人で磐城君の後を付けたのだった。


磐城君のオジサンは元警察官で、自分の探偵事務所を構えていた。
私達はそのイワキ探偵事務所を見張ったのだった。




 みずほの彼はイワキ探偵事務所でアルバイトをしていた。
みずほはその事実を知らなかった。


『実はこれ』

そう言ってみずほは磐城君から贈られたコンパクトを見せてくれた。




 少し遅れて待ち合わせ場所に来た磐城君。
私はその時手鏡を見ていた。
磐城君がその鏡に映る私を無意識に見ることは判りきっていたからだった。


そう、みずほの鏡越のウインクだ。


だからあえて、磐城君をその鏡で見つめたのだ。
磐城君は、思わずドキンとしたらしい。


私もドキドキしていた。
みずほの可愛い仕草と重ねて、胸が張り裂けそうだった。


もう此処に居ないみずほを磐城君に連想させてしまったことを悔やんだ。
みずほの居ない寂しさに押し潰されそうになった。


『ゴメン。みずほの真似しちゃった』

私は思わず、ペロリと舌を出した。


『知ってたのか?』

磐城君の質問に頷いた。


『アツアツみずほのラブコール。知らない訳がないでしょう』
私は笑って誤魔化した。




 『みずほに聞いたんだ、保育園時代のオムツ事件。みずほね、運命の人だって言ってた』


『運命の人!?』
磐城君は相当驚いたようだ。


『そうよ。瑞穂君地区対抗の運動会の時キスしたんだってね? みずほ本当はビビって来たんだって』
私はみずほから聞いていた二人の馴れ初めを語り出した。


『えっ!?』
磐城君の反応を確かめながら私は続けた。


『でも……気が付いたらビンタしていたって。みずほね。ビンタした後で、物凄く衝撃受けたんだって。そして気付いたんだって、ずっと意識していたことを』


『でも……その後も俺、ずっとビンタされ続けていたけど』


『恥ずかしがったみたい。みずほも女の子だからね』

私はみずほの恋を語っていた。


『みずほの気持ちが良く解る。実は……』
私はそう言った。


磐城君が次の言葉を待っているのが解る。


『みずほのコンパクトに憧れてね。彼氏に買って貰ったの』

私はそう言いながら、手鏡を使ってもう一度ウインクした。
みずほに詫びながら……




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