私のエース
 幾ら花で飾られても柩の中のみずほが痛々しい。
今にも起き上がってきて何か言いたそうだった。
それは私の願望だった。


『有美……私はまだ私は死んでなんかいないよ』

せめてそう言ってほしかった。
でも身動き一つしないみずほ。


磐城君はみずほの見える小窓越しに唇を近付けた。
遺体に取りすがってキスの雨を降らしたいのだと思った。
でも釘付けされた柩はもう二度と開くことが出来ないのだ。
虚しさだけが心の隅々まで広がっていった。




 私は葬儀の後で、もう一度木暮君に近付いた。
橋本君と言葉を交わしていたからだった。
でも私の耳には何も聞こえてこなかった。




 「お母さん。今日私親友の彼に会ってきたの」


『転校は先生のため?』その後始まった会話で私は継母と担任の恋の復活を頼んだ。


磐城君は私の提案を快く引き受けてくれた。
だから継母には、私の罪も話しておかなければいけないと思ったのだった。


「親友って?」


「ホラ、この前自殺したってメールが来たでしょ? あの娘彼なの」

継母は大切な話をすることが判ったらしく、私と向き合ってくれた。


「あのねお母さん。私悪い娘なの。実はパパ、これを見て心臓麻痺を起こしたの」
私はそう言いながら、例のツーショット写真を見せた。
その途端、継母の顔が引き吊った。


「ごめんなさい。ごめんなさいお母さん。私パパが許せなかったの。先生の恋人を強引に奪ったパパが……」


「有美ちゃん知っていたの?」


「だから磐城君に……あっ、私の親友の彼は磐城君って言うの。私は磐城君に『パパは私の面倒をみるのがイヤだったの。でもパパ酷いの。財産分与のこと親戚に言われて、ママを籍に入れなかったの。戸籍取り寄せてみて解ったことなんだけど……』って言っちゃったの」


「そうよね。私は確かに籍にも入れてもらえずに……ただ」


「ただ、こき使われていただけだった。だから尚更許せなかったの」


「で、あの人にその写真見せたのは何時?」


「朝学校に行く前、パパ『浮気だ』って騒いで興奮して……」


「だったら有美ちゃんが見せた写真のせいじゃないわ。あの人はその後で会社に出掛けて、仕事中に倒れたの。だから今、労災の審査中なの。有美ちゃんが悪い訳じゃないわ」


「ママ。ごめんなさい、どうしても一度言ってみたかったの。ママありがとう。でも、悪いのは私なんです」

私は継母の取りすがって泣き始めた。

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