〈短編〉裏切りの果てに待っているものは……
無実の証明(慧子視点)
蒼と話した三ヶ月後
あたしは体育館にいた。

蒼の無実を此処にいる
教師含め、全員に
勿論、蒼の“元両親”にも
わからせるために……

『どうも皆さん、
二年A組の霧山慧子です』

此処にいる奴等は
何であたしが出てきたのか
解らないといった顔をしている。

それもそうだろう。

名目は全校集会なのだから。

『今日の集会では三ヶ月前に
屋上から飛び降りた
水影蒼大について話そうと思ってね』

名前を出した途端に
体育館全体が騒がしくなった。

『好き勝手にふざけたこと
言ってんじゃないわよ‼』

マイクを通しているから
体育館の後ろまで響いただろう。

全体を見回したその時
バスケットゴールの上に座る蒼を見つけた。

心配して来てくれたのだろう。

『あんた達は
本当に蒼がそいつを
襲ったとか思っているなら
馬鹿としか言い様がないわね』

あたしの言葉に再び
騒がしくなる。

【だって、泣いてた】
【あれは本当に怖がってたよね】
【あそこには水影しかいなかったしな】

『あんた達の言いたいことはわかた。
なら、今から見せる物と読む物を
見たり聞いたりしても
同じことが言えるのよね?』

私はスクリーンに次々と
画像を流していき、
同時に羽宮の悪行を記した
資料を読み上げていった。

読んでいると
ヘドが出そうなものばかりだ。

読み終わると蒼が隣に来て
ギュッとあたしの手を握った。

〔もういいですよ〕

耳元で蒼が囁いた。

だけど、私は納得していない。

こうしている間にも

流れる羽宮の悪行映像。

こいつさえ転校して来なければ……

『そもそも、あんた達は
一年間、蒼と一緒にいたのに
どういう性格かもわかってない‼』

隣に本人がいるけど
幽霊だからこいつらには見えない。

あたしは主にクラスメイトに
向かって言葉を発した。

一年から二年に
上がる時はクラス替えがない。

『流されてるだけなら
ムカつくけどまだ許す。
だけど、本気で蒼が
女を襲う奴だとか
思ってるなら一生許さない‼』

蒼は苦笑しているけど
何も言わずさっきと
同じように手を握ってくれた。

隣にいるから、きっと
あたしが泣きそうなのを
堪えているのに
気づいていると思う。

〔慧子さん、
ありがとうございます〕

前から抱き締められた。

〔後は彼らの判断に任せましょう〕

周りを見渡すと……

羽宮を糾弾する者。

泣き出す者。

茫然と立ち尽くす者。

教師達は動けずにいる。

特に教頭は頭を抱え
蒼への謝罪を譫言のように
繰返し繰返し呟いていた。

それはそうだろう、
自分の愚かな判断で
蒼を死に追いやったのだから……

“元両親”に蒼が女子生徒を
襲ったと告げたのが
まさに教頭だったのだ。

そんなカオス状態の
体育館からあたしと
蒼は抜け出した。

羽宮の悪行が延々
流れているプロジェクターは
最後まで回れば勝手に止まる。
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