焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「あ……」


気付かれてた。
一瞬、なんて誤魔化そうかと焦る。
と言うか、あの場で鉢合わせして気まずいのは私じゃなくて勇希の方だ。
なのにどうして平然と話題に出来るんだろう。


「……うん」


結局、誤魔化さずに頷いた。
私の反応を確認して、勇希が何度か小さく首を縦に振る。


「話は、私も聞いてる」


自分を落ち着けながら、小さな声で呟いた。


「島田さんから聞いた?」

「それもあるけど……。結構女子の間で噂になってるから」


それを聞いても、勇希はそれほど驚く様子はない。


「そっか」


短くそう言うだけで、夕陽が傾くオフィス街に歩き出して行く。


生温い空気が、私と勇希に纏わり付く。
このまま何も話さずに歩き続けたら、いつもの日常に戻ることも出来るのか。
それが嫌で帰りに待ち合わせをしたのに、私の心がグラッと揺れる。


私が勇希にちゃんと気持ちを告げたら、勇希は部長の紹介を断ってくれるだろうか。
嫌な結末を妄想して、弱気が沸々と湧き上がってくる。


「ゆ、勇希」


気持ちが急いて、私は一歩先を行く勇希の背中を呼び止めた。
一度その場に立ち止まってから、勇希がゆっくりと私を振り返る。


「智美。俺も智美に話したいことがある」


勇希らしくないちょっと硬い声色にドキッとする。
喉が渇いているわけじゃないのに、聞き返そうとした声が貼り付いて音にならない。


「智美。……俺はお前に、同棲の解消を申し入れます」

「え……?」


ドクン、と大きく鼓動が鳴った。
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