焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
そして私は、今まで勇希が結婚を意識したことがなかったと思い知った矢先だ。


『智美以外とは考えられないから』


このタイミングで言われたら、喜べない。
急かされたから言っているようで、それが勇希の意志だと思えないし、何よりも……。
聞いた瞬間に、その言葉が欲しかったんじゃないと、自分でもはっきり自覚してしまった。


私が勇希に言って欲しかったのは、そんな言葉じゃない。


恋人じゃなくなってしまっていた。
なのに、タイミング的にちょうどいいから『結婚しよう』と言われたみたいで、むしろ悲しい。
勇希は、彼女だ、恋人だって口にするけど、私たちには気持ちも実態も何もなくなっているのに。


今の私たちに必要なのは、急いで結婚を決めることじゃない。
そうじゃなくて、もっと、もっと……。


勇希が出て行ったドアを見つめて、きゅううっと胸が苦しくなる。
足元でぐちゃぐちゃになっていた布団を引っ張って、私は再び頭から被った。


ベッドの右側半分で左側臥位になって身体を丸く縮ませる。
一番身体に馴染んでいる寝姿勢をとって、少しだけ安心しながら、私はぎゅっと目を閉じた。
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