【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
あとがき

──筆まかせな話のあとで──


読み返して感じたことがある。

「なんだかずいぶんと大上段から構えたものやな」

と。

剣術でいうところ、竹刀を振り上げて構えているような感覚であろう。

通常なら正眼に構え、切っ先をちょんと動かすだけで斬れるようなところを、わざわざ動作を大きくしているような、そんな感じである。

別に簡単なことを難しく言う、役人にありがちな癖の名残りというのでもないと思うが、本人としては出来る限り的確な表現を目指すと、そうなる。

つまり。

裏返して考え合わせれば、日頃どれだけ曖昧な単語で日常を過ごしているか…という一事に尽きる。

しかし。

そうでもしなければ、人間関係に亀裂や齟齬を生じるから仕方のない話なのかも知れない。

この模糊たる言語は、主張するには不向きながら、機微をあらわすにはうってつけな言語でもある。

それは。

万葉集の巻頭にある、当時のナンパを表現した雄略天皇の御製を引くまでもなく、千数百年にわたって培われてきたヤマト言葉の特徴であり、また外国語にはないニュアンスと文化を持つ。

そうなると。

的確さを追究してゆくと、自然に表現は壮大になり、それが結果として大きく身構えたような、さながら大風呂敷でもひろげたような物言いになるのである。

これは宿命であろう。

当然ながら、大言壮語は嫌がられ、中には揚げ足を取るのが趣味のような人物まで出てくる。

この陰湿な気質も日本ならではなのだが、今のようなネチネチした気性は、少なくとも古代にはあまり見られないものであった。

資料にないのかも分からないが、知る限り古い日本は陽気であり、豪気であり、かつおおらかであった。

グローバル化のもと、こうしたおおらかさは失われつつある。

たかが言語と侮るなかれ、これからは「彼を知り己を知れば、百戦するともあやうからず」で、まず足元を知るのが大事なのではないか、と思う。

個人的に小説の書き方めいたものを、このエッセイでは書き留めた。

小説は才能ではない。

技術と体力と、素材を選ぶ心さえ揃えば誰でもある程度まで書けるものであると思う。

この巻はいわば、執筆の心構えの備忘録のようなものであるが、執筆の参考に役立てば、書いた側としては幸いに思う。





< 20 / 20 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:8

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

【完】『海の擾乱』

総文字数/148,716

歴史・時代51ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
あの「神風」は神風ではなかった──という、 衝撃の事実…。 日本史上最大の国難・元寇。 この滅亡の危機に、 頭脳と勇気で立ち向かった 一人の武士があった。 その武士の名は、二階堂行藤。 エリート武士の御曹司でありながらも 出世コースから外れ、六波羅探題の配下の 平凡な武士に過ぎなかった。 ある日、 久我大納言の血を引く という娘・藤子(とうこ)と出会い、 夫婦(めおと)となる。 そこへ新たに六波羅へやって来た北条時輔や、 仲間の一条家経らとの平和な日々は、 突然の国書の到着によって、 一気に国論を二分する情勢へと 巻き込まれて行く…。 遅咲きの武士・二階堂行藤と藤子、 その周囲の人々を中心に、 戦乱と混迷の時代を自らの手で 切り開いてゆこうとする、 絆とドラマを描く長篇歴史小説。
【完】『空を翔べないカナリアは』

総文字数/55,090

恋愛(純愛)275ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
金髪と日焼けした肌の見た目で、 何かと誤解されがちな いわゆる「黒ギャル」の美優は、 そのチャラチャラした 外見とは裏腹に、 恋愛に臆病な女子高生。 そんなある日、 あることがきっかけで バイク便の運転手・ 貴慶(たかのり)と出逢い、 美優は一目惚れを してしまうのだが… 不器用で、 ちょっとじれったくて、 少しだけビターな 恋愛を描いた、 著者ひさびさの恋愛長編。 《2017・10/01start》 ↓ 《2017・10/15finish》 (随時校閲あり) ※おことわり この物語は一部で実在の地名、 商品名、固有名詞などが 登場しますが、 これらは実在のものとは 全て関係はありません。 なお、作品の性質上、 一部に刺激のある 文章ならびに表現がありますが、 ストーリーの一部である ことをあらかじめ ご理解くださいますよう お願い致します。
【完】『雪の都』

総文字数/40,526

恋愛(その他)192ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
花火大会の夜、 上司との不倫が発覚して、 契約社員の桜子は それを機に失業してしまう。 そのころ、 元同僚の深雪に 誘われて、 ステンドグラス教室で 制作体験を したのを切っ掛けに、 桜子はステンドグラスの 制作を勉強しはじめる。 そんなときに、 バイクで同じ教室に通ってくる リーゼントの男・薫に 桜子は出会うが… 雪の都・札幌を舞台に 繰り広げられる、 男と女の 人間模様を描いた作品。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop