俺様上司は溺愛体質!?
たった一言の「ありがとう」が、ちとせの胸の奥で小さな火種としてくすぶっている。
(忘れなきゃいけない。でも意識しないなんて無理だよ……。)
自然とため息が漏れる。
「だから今更……!」
(ん?)
どこからか苛立ったような声が聞こえた。
遠くはない。むしろすぐ近くのようだ。
何も考えず、台車を置いたままヒョイとエレベーターの裏手を覗き込んでいた。
「……どちらにしても、近いうちにお伺いします」
スマホを耳に押し付けていたのは真屋時臣だった。
いつも余裕の彼には珍しく、あっちを向いたりこっちを向いたりと忙しない。しかも片方の手をポケットに差し込んでいた。
「……では、また」
電話が終わっても彫刻のような横顔は険しく、眉間にしわを寄せていた。
明らかに不機嫌全開である。
(仕事絡みかな……。)