ヴァイオレット
「雅人さんって、失恋の曲ばかり歌うんだね」

雅人さんと初めて話してから一ヶ月。
少し前から思っていたことを聞いてみた。

「もっと片想いの歌や、両想いになる歌とかも歌えばいいのに」

私にとっては何気なく言った言葉だったが、雅人さんの手が止まったのがわかった。

「……俺は失恋の曲のほうがあってるんだよ」

「え?」

雅人さんは遠くを見るような、哀しい瞳をしていた。
なぜそんな哀しい表情をしたのか、私は聞けなかった。

「ごめんなさい」

ふと謝らなければいけないと思い、無意識に出た言葉だった。

「なんですみれちゃんがあやまるの?」

雅人さんは少し哀しそうに笑い私に問いかける。

「だって雅人さんにそんな顔をさせてしまったから」

泣いてしまいそうになったが、私は下唇を噛みじっとこらえる。
雅人さんはそんな私を見て、少しの沈黙のあとにゆっくりと話し始めた。
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