課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 出来れば、私の居ないときに来てくれ、と思っていた。

 扉が閉まり、雅喜と二人だけになる。

「どうかしたのか?」
と訊いてくる。

「いやもう、なにがなんだか」
と言いはしたが、その先の言葉は出なかった。

 もういっそ、なにもかもなかったことにしたい、と思っていたが、羽村につかまれた腕も触れられた唇も、まだその感触を残していた。

 ……もしかして、課長以外の人とキスしたの、あれが初めてかも。

「沢田」
「は、はいっ」
と緊張して返事をしてしまう。

 雅喜が胡散臭げにこちらを見ている間に、エレベーターは総務のフロアについた。
 



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