課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
真湖たちは、門のところで、世話になった仲居さんたちと話しながら、タクシーを待っていた。
「すみません。
慌ただしくて」
もう十時まであまりないうえに、海まではちょっと距離がある。
雅喜は落ち着かなくタクシーの到着を窺っているようだった。
「課長、落ち着いてください」
と言うと、部屋係の若い仲居さんが笑い、
「ぜひ、またいらしてください」
と言う。
また、課長と人前で呼んでしまった、と思いながら真湖は小声で、
「あのー、私たち、不倫カップルじゃありませんから」
と言うと、年が近い気安さからか、彼女は笑い、周りの仲居さんたちに聞こえないよう、声を落として言った。
「こう申してはなんなんですが、あの方、結婚してるようには見えません」
女二人で顔を見合わせ、笑う。
あのマイペースさではな、と思っていた。
奥さんと子供が居たら、日々、そんな自由は利かないだろうから。
幾らなんでも、もうちょっと扱いやすい人格になっていることだろう。
しかし、丸くなった課長とか想像もつかないんだが。
そんな笑い話は、雅喜には聞こえなかったようで、彼はタクシーの到着を気にして、下の道ばかりを見ていた。