課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜



 自宅に帰り、風呂に入る頃には、随分と酔いも冷めていた。

 なんか意外に楽しかったな。
 課長と一緒だったのに。

 そんなに緊張もしなかったしな。

 ふいーっと狭い風呂に浸かりながら、あの露天風呂を思い、道後温泉を思った。

 また連れてってやるって……。
 勢いで言っただけだから、覚えてないだろうな、と思う。

 夜の道後温泉を二人で歩いた。

 赤い提灯に子供の頃の記憶を思い起こしながら。

 そのうち、あの提灯を見たら、課長と歩いた夜のことを思い出したりするのだろうか。

 そのとき、私はなにをしてるんだろうな、と思ったとき、スマホが鳴っているのに気がついた。

 防水じゃないんだよな、このスマホ、と思いながら、ドアを開け、脱衣場にあるそれを手を拭いて取る。

 『五嶋雅喜』

 この間ほど緊張はしなかった。

「はい」
と取った瞬間、
『お前、杯忘れてるぞ』
と言われる。

「あ」
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