偽りの御曹司とマイペースな恋を



「……」
「何だ」
「……」
「…だから、何だ。その、そんなに睨まれると困るだろ」

歩の交渉もあってか前よりはまだ会議に参加出来るようになった。
それでもまだまだ会議が遅くなりそうなら早く帰れと追い出されるし
企画を発表しようとしても事前にあれこれ難癖をつけてくるし
先輩の助手として車を出そうとしたらお前はこっちをやれと留守番。

そしてせっかく飲み会に誘われて当然のように歩も行こうとしたのに
小難しい難題をふっかけて潰すという荒業をさきほどやってのけた。
誘ってくれた先輩たちは苦笑しながら帰ってしまう。

「……イツロ君との思い出を振り返ってたの」
「え?今?どうした急に」
「何でこんな意地悪な人と同棲してるのか冷静に考えたくなって」

これだけされて怒らないほうが変じゃないですか?

「嫌になったか?」
「思い出した結果、やっぱり一緒がいいってなったからもういい」
「そうか。……怒った顔も、可愛いな」
「そういう空気読めてない褒め言葉も含めてイツロ君だもんね。わかってる」
「ごめん」

歩はもうそのまま家に帰るというのに彼は会社へ戻るというし。
だったら飲み会に行かせろよと心のなかで叫ぶが口には出さず我慢。
部屋の途中まで車で送ってもらって、まっすぐ帰れと釘まで刺されて。

「…やっぱり私は彼のペットなんじゃないかなぁ。実果に聞いてみようかな」

彼女ってなんだっけ。だんだんぼやけてきたぞ。


「名栖!」
「あれ。ノゾミン!どうしたの?こんなとこで!」
「何ってお前。リンゴフェスタに向けての買い出しだ」

部屋に向かって歩いていたはずが気づいたら本屋に居て。
手頃な漫画を探していたら知り合いを発見。
歩と同じホラーマニアでリンゴコレクターの青年、希。
同じ高校で只今花の大学生。

「……あ!もうそんな時期?チケット買ってないわ」
「お前も行くの?じゃあ一緒に行くか。彼氏は興味ないんだろ」
「無いね。全然。じゃあチケット宜しく」
「俺かよ。…まあいいや。わかった。じゃあ後でメールするわ」
「うん。よろしく」

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