一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「三十分だって。結構あるね」
ゆっくりオールをこぐ游さん。その姿を見ながら五年前の彼を思いだす。
あいつはオールが上手くあつかえずに勝手に苛立ち、私にあたった。ここからどうやって引き返せばいいんだって怒鳴った。
「楽しいね」
「そうですね。でも、あまり遠くにはいかないほうがいいですよ」
上手く回転できずに困りますよ。
「なんで? せっかくだから行ける所までいこうよ、ね」
「游さん、疲れてるのに」
「大丈夫だよ。意外と体力あるんだよ」
確かに、体は細いけれど腕にはしっかりと筋肉が付いている。この間抱きついた時も、男らしい体つきだな、なんて思っていたし。脱いだら多分、すごい。
余計な妄想を膨らませる私をよそに、游さんはどんどんとオールを漕いで行き、ボートはすいすいと進んだ。
「由衣子ちゃんもやってみる?」
池の端の方まで来て、游さんはオールを私に手渡した。
「いえ。私、こういうの苦手なんです」
「そう? 僕ばっかり楽しんで申し訳ないなって思ったんだけど、女の子はこういうの苦手か。そうだよね」
游さんは無理強いすることなく、またオールを漕いでちばん端までくると器用にボートを回転させた。
「ゆっくり戻ろうか」
「はい」
水面をなでて通り抜ける風はとても心地がいい。心地よい揺れが相まって、私はついうとうととしてしまった。