一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
お昼の時間になった。私は持って来ていたお弁当を広げる。
「へえ、若いのにえらいね」
蓬田さんは私のお弁当箱を覗き込んで感心したように言った。
「節約してるんです。アパートを借りるので、少しでもお金をためないといけなくて。でも、今月のボーナスでどうにかなりそうかなって思ってるんですよ」
基本給の三倍以上の額が夏のスタンダードだ。それをもらったら、本格的に部屋探しをしようと思っている。
しかし、蓬田さんは「でも」と首を傾げる。
「ここの賞与は十万円じゃなかった?」
耳を疑う言葉だった。賞与が十万円だなんて、同じ会社でそんなことがあるのだろうか。
「それは非正規雇用の方だけじゃないですか?」
「ううん、センター長がよくぼやいてたから間違いないと思うよ。営業さんたちはたくさんもらってるんでしょう? ほら、インセンティブとかいう」
そう言われてみればそうだ。賞与は部門別の業績を加味して支払われているので、特に営業部は本社の中でも高い方だと聞いたことがある。隆は私の倍以上の額をもらっていたし。
「それがホントなら、私の夏のボーナスは十万円ってこと?」
「いいじゃない、もらえるだけ。贅沢ね~」
呑気にそんなことを言う蓬田さんをよそに、私はパソコンを開いて会社の給与規約に目を通した。
「ほんとだ」
蓬田さんの言う様に、夏と冬、どちらも一律十万円と明記されている。よくよく調べてみると、本社では出ていた様々な手当てがほとんどカットされてしまうこともわかった。つまり、月々のお給料も大分下がってしまうという訳だ。
急に目の前が暗くなる。これでは引っ越しどころか、日々の暮らしも危うい。