ハウトゥ・シナプス
深呼吸をして、また彼はこちらを見上げた。
「おい、梓」
「え、はいっ」
「お前は梓だ。紗咲梓」
「そ、それは憶えてる」
「平仮名で書くと“さ”が多くて面倒くせえ紗咲梓」
「憶えてるってば。っていうか失礼」
「俺の声で」
「え?」
「俺の声で呼ばれる梓って名前も憶えてんのかよ」
「え………」
憶えてない。もちろん、憶えてない。
けど、そういえばなんとなく、懐かしいような、そうでもないような。憶えてるような。やっぱり、憶えてないような。
彼は私から目をそらさない。
「あずさ」
「…………きいち」
「!? ななななんだよ! なんで俺のことまで呼ぶんだよ! 照れんだろーが!!」
「……え? 喜一」
「やめろ!!」
自分から始めたくせに、やっぱり変な人だ。
彼は、喜一は、どうやら不意打ちに弱いらしい。
大袈裟なくらい驚いて後ずさって、いっきに赤くなった顔を手の甲で隠そうとする。……あ、おもしろい。
「だってフェアじゃないから。喜一」
「お前それ……っ、そういうの! マジで変わってねえな!」
「喜一の記憶がないだけで、性格は別に変わらないです。馬鹿なんです?」
「変わってねえな!!」