film

私の後ろに座り
私を抱きしめるように
健吾はバスタブに浸かり
短くなった私の襟足に何度もキスをする。


「茉美ちゃんが、僕のために
呼んだらすぐに駆けつけてくれたり
髪を切ってくれたり、いろんなことをしてくれるとすごく癒されるんだよ。

僕は写真に全てを捧げているから、誰かに尽くしてもらうと、癒される」

そして後ろから強く抱きしめた。

「それから…
ほんの少しの間だけど
ヨーロッパに行こうと思ってる。
今回の制作でかなり精神削がれたから
日本を出る
って言っても写真は撮るんだけどね」


「あ、茉美ちゃん、アイス食べる?」

今日の彼はよく喋る。

私が頷くと、体をさっとバスタオルで巻き
キッチンへ行った。


アイスを持って再び湯船に浸かり
蓋を開けて私に渡す。


「もう右目が限界みたいなんだ。
長くないね。
左目も少しずつ追いついてきてる。
だからさ、ちょっとハードだけど
出来るうちにたくさん撮っておきたいし、
それに…」


「茉美ちゃんの女子高生姿も見たい」

口に入れるアイスを落としそうになった。

彼の笑顔につられて
私も笑う。



湯気でアイスが溶けていく。

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