姉弟ごっこ
「おはよ。朝食、食パンでいい？」私は冷蔵庫からバターを取り出す。
「えー、俺ガレットがいい。ベーコンとチーズの」ベンチに座った哲史は新聞を広げた。
「却下」
「じゃあ聞くなよ～、ねぇちゃん」

あくびをしながら哲史が言ったので、なんだ、普通じゃんて思った。
昨日はちょっぴり感傷に浸っているような気もしたが、今朝はリラックスしているので私は密かに胸を撫で下ろした。

「今夜の夕飯、どうする？」

焦げたパンの耳をかじり、咀嚼しながら哲史が言った。

「適当に食べてて」
「ねぇちゃんは？」
「私は、外で食べるから」
「え、なんで？だったら俺も一緒に」

コーヒーを啜り、両手にカップを持ったままで私はちらりと哲史を盗み見た。

「今日はデートだから、食べて来る」

いい大人なんだから、こんなことに気を遣う必要なんてないはずなのに。なんだか親に門限を破った言い訳している小娘みたいで非常に気まずい。

「デート相手ってあの、芽衣子の結婚式に来てたやつ？公務員の」

空になったカップをテーブルに置き、私はぱっくり口を開けた。
確かに今夜デートするのは芽衣子の結婚式に来ていた新郎の友人である、公務員の久島さんという男性だ。

「な、なんで知ってんの」
「だって俺も結婚式に出てたから」

大口で食パンを食べ終えて、哲史はコーヒーを飲み込んだ。
< 10 / 55 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop