姉弟ごっこ
「そんなこと聞いてないんだけど」
「昔よくやったよなぁ、刑事ごっこ!俺とねぇちゃんがこっそり芽衣子の後つけるやつ」

懐かしそうに、哲史は目を細めた。夜の暗がりに、芽衣子の姿なんか見えるはずなんてないのに。面影を探るような目線だった。

「芽衣子の初デート尾行したりして。悪趣味だったよな、俺ら」

眉を下げて笑う哲史に、上手く微笑み返すことができない。

家具職人が駅ビルに、どんな仕事があって来たのだろうか。
もしかしたら哲史は、あの部屋に独りでいたくないのかもしれない。

「あっちに自販機あるから、行こう」私は哲史の手を引いた。
「え?俺喉乾いてねーけど」引っ張られ、つんのめりに躓いた哲史が間抜けな声で言う。
「温かいの奢ったげるから。ココアでしょ?あんたはお子ちゃまだから」
「あ?俺超コーヒー党だしブラックだし。つかねぇちゃん、デートは?時間いいの?」
「あ。」

大股で歩いていた足を急停止させる。バッグからスマホを取り出し、時間を確認した矢先。

「まひるちゃん?」

目の前にスラックスを履いた足が見えて、私はぎょっとした。

「久島さん!」

スーツ姿の久島さんは、驚いて立ち尽くす私に歩み寄ってきた。

「駅前までなかなか来ないからさ、迎えに来たんだ」
「すみません!ちょっと仕事が長引いてしまって」
「そうなんだ、気にしないで。お疲れ様」

優しく囁いた久島さんは、ガバッと頭を下げた私ではなく、その隣にいる人物を見据えた。
< 17 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop