姉弟ごっこ
「すごいなぁ!有名人と知り合いなんて」
「有名人だなんて、とんでもないです」
「なんでまひるが言うんだよ」

哲史が私の肩を小突いた。
反動で、私は体がバネにでもなっちゃったみたいにゆらゆらさせる。哲史の力が強かったからじゃなく、違和感を覚えて体に力が入らないせいだった。

「まひる」

もう一度、哲史は私の名前を呼んだ。

なんでいつもの“ねぇちゃん”じゃないのよ。
哲史の低音での“まひる”が耳に引っ掛かってしまって、しっくりこないから返事に躊躇してしまう。

「帰り、あんまり遅くなんなよ?」

黙っている私の頭のてっぺんにぽんと手を乗せ、哲史は踵を返した。最後に久島さんに、いつになく深刻そうな形相で軽く一礼をして。

「まひるちゃん。心配されてるんだね、彼に」

頭頂部に残った感触を、私は髪を直す振りをして取り払った。

「あ、はは」

反応に困ったので、薄笑いを浮かべる。
ポスターの中に写る、真面目な表情をした哲史と目が合って、私は急いで逸らした。

「ーーここさ、職場の奴らがお洒落な隠れ家みたいですごくいい店だって言ってて」

そう言って久島さんに案内されたのは、大通りから一本細い路地に入った喫茶店の二階だった。
レンガ作りの壁面には蔦が茂っている。
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