姉弟ごっこ
そんな淡い期待を、私は抱いている。

「ああ食ったな」隠れ家レストランを出た久島さんは、歩きながらお腹を擦った。
「私も食べ過ぎちゃいました」真似してお腹を押さえた私を見て、久島さんは満足そうに柔らかく微笑んだ。

「この後どうする?どっかで飲み直す?」
「そ、そうですね」

決してお酒に弱いってタイプじゃないんだけど、少々仕事の疲れが溜まっているからか、少し酔いが回っている。
その証拠に足元が覚束無くて、「きゃあ!」歩道の段差に躓いた。

「っと。大丈夫?」

久島さんが手際よく肩を支えてくれたから、距離がぐっと縮まった。至近距離で見る彼氏の笑顔に、私の胸はどきんと高鳴った。

「時間も遅くなっちゃったし、まひるちゃん疲れてるみたいだし。このままどこか、ゆっくり出来るとこで飲み直すってのはどう?」
「えっ」

歩調が鈍る。
ゆっくり出来るとこ、って。
瞬きを忘れて、乾ききった目で私は久島さんを見上げた。

「無理に、とは言わないけど。俺もっと、まひるちゃんと一緒にいたいなって思って」

言い辛そうに、久島さんは鼻先を指で引っ掻いた。

「あ、私……」

久島さんとなら、きっと乗り越えられる。気遣ってくれる優しい人じゃないか。

それなのに、足と唇が思うように動かない。
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