姉弟ごっこ
電車に揺られながら、私はその小さな箱が入ったバッグをしっかりと抱き締めた。

久島さんは、私との関係をステップアップさせようと思ってくれた。本来このプレゼントは、この後に行く予定だった久島さんのお部屋とか、ゆっくり出来るどこかで渡されるはずだったのかも……。

『相手もさぞかしあそこおっきくして待ってんだろうねぇ』

哲史の下品な言葉を思い出し、途端に心臓がばくばく煩くなったので、私は深呼吸をしてから駅で降りた。

芽衣子が結婚することになったとき、本当に自分のことのように嬉しかった。姉妹のように田舎で育ち、励まし合いながら苦楽を共にしてきた親友が幸せになるのは心底嬉しかったんだ。

だけどいざ、独りになって。
職場での環境も変わって、自分自身を見直す直面に、私は立っている。

「ただいま」

家に帰り、リビングのドアを開けると、ベンチに仰向けになる体勢で哲史は雑誌を被っていびきをかいていた。
テレビがつけっぱなしだったので、テーブルの上からリモコンをぶん取りオフにする。

それから私は、哲史に背を向けた。バッグの中から取り出した小さな箱の包みを丁寧に開けてみる。

「指輪、だぁ……」

シルバーのリングで、真ん中にはハートの形をした水色の石がデザインされている。
滑らかに光沢を放つ銀色の曲線と淡い水色の輝きを、私は指先を震わせながら摘まんだ。

嵌めてみると、薬指には少し大きかった。当たり前だ、薬指用ではないのだ。付き合った記念だと言ってたじゃない。

自分にそう言い聞かせながらも、私は未練がましく右手の薬指に嵌め、前後左右に手を翳したり翻したりしながらじっくりと見つめた。
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