姉弟ごっこ
『そうそう、てっきりサブ店長の白濱さんがそのまま店長になると思ったのに』

店長がメンズに移ったとき、いよいよ自分が店長になるんだと思った。でも、違った。思い上がりも甚だしくて、すっごく恥ずかしい。

同期は次々に昇進してゆく。店長や、トレーナー、マネージャーへと。後輩たちだってどんどん上司になってゆく。

芽衣子の結婚式に出席すれば、同級生たちは子ども連れで、幼稚園選びとか予防接種のスケジュール立ての話なんかで盛り上がる。

29歳。
環境が変わってゆく光景を目の当たりにして、取り残されてる自分に気づいた。

でも、恋には臆病で。
なかなか一歩が踏み出せない。

『俺、まひるなんかと付き合うんじゃなかった』

歯痒い昔の記憶がまるで呪いかのように、邪魔をするんだ。

「あいつと、結婚すんの?」

前触れもなく耳に届いた声に、私は両肩を張り上げらせた。悪戯がバレた子供みたいに、ゆっくりと刻むような角度で不器用に振り向く。

「起きてたの?」
「公務員って、まあ結婚相手には申し分ないよね」

顔に被っていた雑誌をぺりっと接がした哲史は、「よっこいせ」背中に反動をつけて起き上がる。

「別に、久島さんのいいところはそれだけじゃないし」
「へえ、他には?」
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