姉弟ごっこ
器用に片方の眉を上げて、哲史は立ち尽くす私を見上げた。

「例えば、料理をがつがつ食らうとこが男らしくていいなって思うし」
「メシなら俺だってガツガツ食うよ。つか、ねぇちゃん料理苦手なのに、なんか不毛だねぇ」
「るさいなぁ!他にもこうやって、サプライズでプレゼントして喜ばせてくれるし」
「付き合って日も浅いのに、指輪贈るとかちょっと軽率じゃね?」
「いちいち難癖つけないでよ!もう、哲史には関係ないでしょ」

指輪を嵌めた右手に、ぎゅっと力を込めた。

「てか、そう言う哲史はどうなのよ。結婚とか、真剣に考えたことないでしょ?」

こうして芽衣子の後を追って面影に浸って、芽衣子の抜殻で生活することを選んだ哲史の気持ちが、私には分からない。
私は深刻に悩んで、過去と向き合って、そして未来へ踏み出したいと思ってる。
きっと次々と恋を重ねる猶予はもう残されてないんじゃないか、そんな焦りに戸惑いながら。

「哲史はまだ、若いしね」

込み上げてくる涙を堪える。手のひらに爪が刺さる。
いくら悩んでいるからって、こいつの前で泣くなんてさすがに恥ずかしい。

「おやすみっ」

そう思って、その場を立ち去ろうとした瞬間。

「ガキ扱いしてんのか?」

私は踏み出そうとした片足を引っ込めた。自らそうしたんじゃない。手首を捕まれ、動きを阻まれたのだ。

「っ」

声にならずにただ息を、私ははっと吐き出した。
握られた手首をぐっと引かれ、驚いた体は自在に引き込まれる。
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