姉弟ごっこ
一階のフードコート内にあるカフェで、束の間の休息の時間だった。

「そういえばさっき、顧客様が来てたね。電話した方?」

私が聞くと、後輩は嬉しそうに頷いた。

「新作をまとめ買いしてくださって。あの顧客様のお陰で予算達成できそうだって店長が言ってくれたんです」
「そっかぁ、すごい。良かったね」
「はい!」

それから彼女は、お客様にご提案したコーディネートが素敵だと店長が誉めてくれたと喜んで話した。
ちょっと現金な気もするけど、店長への不満を漏らしていたつい先日までの彼女とは顔付きが大分違った。

店長は厳しいけど、やり手であることには間違いない。今回のフェアは、エリアでトップの売上を見込めるだろう。
結果が出れば、やりがいを感じる。仕事が好きになってモチベーションが上がる。

そんな基本的なことを、私は自分より幾つも若い後輩に教えられたような気がした。
いや、正しくは忘れてたんだ。

昔は私だって、ファッションが好きで、接客が好きで。素直に仕事が好きだと言えた。
でもいつからか、それよりも立場に拘るようになって。純粋な気持ちを忘れていたのかもしれない。

「白濱さん、私、お手洗いでメイク直してから戻りたいんですけど」
「了解!私はちょっと寄るとこあるから」
「わかりました」

後輩と別れた私は、腕時計で時間を確認した。休憩時間は、まだ15分残っている。

「うわ、結構混んでる」

作品展が開かれている催事場に近づくにつれて、人口密度が高くなってきた。
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