姉弟ごっこ
やばい、抱っこしたまま転んでしまう!
上手く受け身を取らねば、などと頭の中で冷静に考えつつ、痛みに備えて目を瞑った。

だけど。

「あれ?」

痛く、ない……?

まずは目を開けて、抱いていた女の子を床に立たせた。
次にお尻と背中に感じる違和感の正体を確かめるべく、私は振り向く。すると。

「っ痛~。重いよ、ねぇちゃん」

なぜか私の下敷きになっている哲史は、苦しそうに顔をしかめて悲鳴をあげた。
解説すると哲史のお腹を椅子にして、私が上に座っているという状況である。

「え!?ご、ごめん」

勢いよく起き上がった私は、背中と床の間に挟まれた哲史の右腕を見て、息が止まった。

「哲史っ」
「へ?」
「手!」

ああ、と呟きながら右手を掲げた哲史は、反対の手で手の甲を擦る。

「ちょっと打ったみたいだけど、こんぐらい平気」

哲史の周りに群がっていたお客さんたちが、何事かと慌てた様子で駆け寄ってきた。
立ち上がった哲史は、みるみる赤くなってゆく右手を見つめる私に、ふっと小さく笑った。

「ねぇちゃん休憩中なんだろ?そろそろ店に戻った方がいいんじゃね?」
「でもっ、」
「なんだよ、そんなに俺と離れがたいのか?」
「はぁ?」

“ごっこ”であるにせよ、姉を侮らないで欲しい。

にかっとわんぱくに笑う哲史を見て、 胸が傷む。それは私を安心させるための笑顔だと、すぐに気づいた。
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