姉弟ごっこ
まさか、右手が相当痛くて倒れてる、とかじゃないよね?

「哲史?」

私は焦りを抑えながら、スニーカーをきちんとふたつ揃え、リビングのドアを開けた。
すると。

「おっかえり~。遅かったな」

哲史はベンチに座りながら、あたりめをかじり。「最近この芸人よく出てるよな」缶ビール片手に、テレビのバラエティー番組を見ている。

「このあたりめ固くない?めちゃくちゃ顎疲れるんだけど」
「……」

既視感がある。まるで休日の私を見ているかのようだ。
私は溜め息を吐いて、バッグを床に放り投げた。

「なに呑気なこと言ってんの?心配して帰ってきたのに」
「ねぇちゃん、ちょっとこっち来て」

缶ビールをテーブルに置いた哲史は、おいでおいでと手招きする。

「なに?」
「ここに座って」

ベンチの隣に座るスペースを太鼓のようにぽんと叩き、哲史はにっこりと笑った。

「湿布替えて?」

甘えた言い方で、哲史は未使用の湿布を私に差し出す。

利き手じゃなくてもそんくらい自分でできるじゃん。
って思ったけど、やっぱり後ろめたさがあったので、私はおずおずとベンチに座った。

そして気づいた。
二人掛けのベンチは、意外に窮屈なことと。哲史の右手は思いの外腫れ上がっていることに。

「本当に、ごめんね」
「だから気にすんなって!ねぇちゃん、あの子助けてくれたんだろ?むしろ感謝だよ」

新品の湿布の、透明のフィルムを剥がす。

「感謝だなんて」
「いや、本気で」

目が合う。
肩が触れ合うくらいの狭い距離だから、お互いの瞬きの速度さえつぶさに見えた。
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