姉弟ごっこ
元カレは高校球児で、大事な試合の前だった。試合に出られなくなって、怪我の原因を作った私は野球部の顧問や親に責められた。
その噂には尾びれと背びれがひらひら付いて、元カレの妹がいる中学校にまで広がって。
哲史の耳にも入ったんだよね。

『ねぇちゃんは、悪くない』

そう言って哲史は、不器用に巻かれた私の右手の包帯を巻き直してくれた。社宅の目の前にある公園のベンチで。

「俺は、あいつとは違うから」

回想に暮れて押し黙っていた私の耳に、哲史の穏やかな声が響いてはっとする。

「あんな男と俺を一緒にすんなよ?」
「でも、あんた手を怪我したら仕事が……」
「こんくらいすぐ治るし」

口を真横にいっぱいに広げた哲史は、ちょっとだけ潤んだ私の目を真っ直ぐに見た。

慰めてるつもり?
私が、今回のことで元カレとの過去を思い出したから?

「だったら、料理とかもっと手伝いなさいよね」
「それはねぇちゃんの腕前を評価してやろうっつー親切心だよ」
「はぁ?ったく、何様のつもりなんだか」

呆れて立ち上がった私の手を、哲史が掴んでぐいっと引っ張った。

「いつまでも、過去を引きずってんなよ」
「え?」
「過去に捕らわれてないで、俺を信じてみない?」

しばらくそのまま、動けなかった。
放心した目で見つめる私を見てふっと笑い、哲史は窺い込むように首を傾げた。
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