姉弟ごっこ
「へ、へぇ」

お洒落?アンティーク?
よくわからん。

「それでも哲史は頑なに首を縦に振らないそうよ。まぁ、哲史本人じゃなくて職場の噂で聞いた話なんだけど。きっとあのベンチに思い入れがあるのね」

芽衣子は、さして酔っているわけじゃなかった。会計のとき、端数までしっかり暗算で二等分した。

哲史を気に掛けてるようだから部屋に寄ってく?って聞いたら、「遠慮するわ、邪魔しちゃ悪いし」と言って、またニタニタと気持ち悪く笑った。
最寄りの駅で電車を降りた芽衣子は颯爽と去って行ったが、私はもやもやした気分でいっぱいだった。どうしてくれるんだよ、お酒と一緒に消化できないこの気持ちを。

駅からアパートへの途中、久島さんからメッセージが届いた。

“明日の夜、デートしない?”

「ただいま」

リビングのドアを開けると、酸味のあるトマトソースの匂いが鼻をつんと刺激した。

「おかえり、ねぇちゃん。パスタ食う?」

件のベンチに膝を立てて座り、哲史はフォークでお皿の中のパスタをざっくりと掬った。

「いい。芽衣子と食べて来たから」
「まじ?ずりー。俺も誘えよな」

不貞腐れたような言い方をして、パスタを口に入れる。

「芽衣子さ、今日作品展に来てくれたんだ」
「そうなの?」
「うん。差し入れ持って来てくれたんだよ!」
「へぇ……良かったね」

無邪気に笑う哲史を見ながらも、芽衣子の笑顔が残像のように視界でちらちらと霞む。
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