姉弟ごっこ
私は哲史の背後に回って、ベンチの背もたれに両手を付いた。

「その作品展も明日で終わるんだね。いつ出ていくの?」
「さくっと片付けて、明後日には引っ越すよ」

なんの未練もなく、あっけらかんと言った哲史は唇の端に赤く付着したトマトソースを親指で拭う。

「ぴったし一週間だろ?」

帰るんだ。
ほんとにあっさり、一週間で。

「ねぇちゃん、どうしたの?」

すっと背もたれに腕を回した哲史が、くるりとこっちに向き合った。

「やっぱり、食いたくなった?」

直立する私を、訝しげに見つめる。

「違うよ」
「あー、分かった」

意味ありげに目を細くされ、柄にもなく。「なによ」声が上擦った。

だって芽衣子が、変なこと言うから。

『もう少し、相手のことをよく見極めたら?』

感化されたのか、いちいち哲史の挙動に翻弄されてる自分がいる。
でも。

「俺がいなくなるの、寂しくなっちゃった?」
「まさか。私、明日の夜も久島さんとデートだから」

ベンチから手を離して、私は回れ右をしながら拳を握って力を入れた。薬指の指輪が、両隣の指を強く圧迫した。
< 42 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop