姉弟ごっこ
* * *

「お疲れ、まひるちゃん」

待ち合わせの時間よりやや遅れて久島さんが現れた。場所は、駅ビルの出入り口の前。

「混んでてなかなか立体駐車場に入れなかったから、近くのコインパーキングに停めてきたんだ」

両手をぱちんと合わせ、「待たせてごめんね」と謝る久島さんに、私は両手を振って否定した。

「そんな、全然大丈夫です」

本日の駅ビルは、確かに混んでいた。
哲史の作品展が今日で最終日。即売会が行われ、桁外れの集客力だったらしい。
お陰で商業施設の閉店後も、併設された立体駐車場が混み合っていた。

「今日は車で来たから、ちょっと遠出したいんだ。まひるちゃん、明日休みだろ?」

駅前のロータリーを行き交う車のヘッドライトをぼんやりと眺めていた私は、「は、はい」ちゃんと聞いてなかったくせに空返事をして、隣に立つ久島さんを見上げる。

「だから今夜はその、遅くなっても平気?」

遠慮がちにそう問われて、私の頭は真っ白に支配された。
ヘッドライトの残光が、目の前の世界にあるものすべての輪郭を曖昧にさせる。

『俺がいなくなるの、寂しくなっちゃった?』

ただひとつだけ、哲史のふざけた声が、騒がしい雑踏の中でクリアに甦った。
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