姉弟ごっこ
「それはこっちの台詞よ!」

怒鳴った女性は、久島さんを睨んでいたつり上がった目を今度は私に向ける。
足元から頭のてっぺんまで、大きく肩を揺らしながら見て、最後に繋がれた手に視線を合わせて更に呼吸を乱した。

「誰よこの女!黙ってないでなんとか言いなさいよ!」

息も切れ切れに声を裏返して叫んだ女性に対し、恐らく驚愕のあまり閉口した久島さんは咄嗟に私の手を離した。

「お前、出張じゃなかったのか」
「一日早めて帰ってきたのよ!最近どうも様子がおかしいなとは思ってたのよ」
「いや、この子はその、」

剣のある女性の声と、言い淀む久島さんの震えた声とを聞きながら、私はあまりにも信じがたいこの状況を思いのほか冷ややかに俯瞰する。

どうやら私は彼氏の、浮気相手と遭遇してしまった。

「やっぱり他に女がいたのね!?」

のでは、ない。

私が浮気相手だったという現実に、進行形で直面している。

金切り声で喚く女性の肩を、焦りながら久島さんが掴んでなにか言葉を駆けている。通りすがりの人がみんなこっちを見てゆく。
まるでドラマでも見てるみたいだな、と思った。

そういえば、哲史が部屋に来た日に見てたドラマ、放映日は今夜だ。予約するの忘れちゃったなぁ、なんて。

「ちょっと落ち着けよ、な?」
「うるさい!絶対に許さないわよ!」
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