姉弟ごっこ
私はよっぽど現実逃避したいらしい。
哲史が気を利かせてあのドラマを録画しといてくれたらいいのに。今どこでなにをしているんだろう、などと薄ぼんやり考えていたとき。

「わーお、修羅場?」

最初は野次馬の一人が、面白がるように声をあげたのかと思って無視したんだ。けれども。
ずっしりと片側の肩が重たくなったと思ったら。

「あんまし騒ぐと通報されちゃうよー?こんなんには関わらない方が得策だよ、ねぇちゃん」
「っ!」

声は耳元で囁くように聞こえた。
驚いて目だけで真横を確認する。この声のトーン、前髪の長さ、鼻筋の通り具合い、唇の厚み。

哲史だ。
たった今、肩を組むようにして私に体を寄せているのは。

「な、なんで……」いきなり現れちゃってんの!?

ただただ驚いている私を嘲笑うかのように、哲史は片目を細めてにっと笑った。
すると、「ひぃっ」という苦しげな声を誰かがあげた。

「嘘っ、本物!?」

さっきまで鬼みたいな顔で怒っていた女性が、きゃあっと悲鳴をあげた。
ただ怒りだけを宿していた女性の鋭い目線は一変し、キラキラに輝いた瞳を哲史に向けているではないか。
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