姉弟ごっこ
「さっきは作品展にご来場くださって、ありがとうございました」

私の肩に手を乗せたまま、哲史は女性に向かって頭を下げた。

もしかして、久島さんが言ってた渋川哲史のファンの知り合いって……。
さっきまでの印象をがらりと覆えされる。女性はしおらしく手で口元を隠し、唖然とする久島さんの脇で食い入るように哲史を見つめている。

「それから。うちのねぇちゃんに社会勉強させてくれてどうもありがとう。俺らはこれで失礼します」

鳩が豆鉄砲を食らったような二人にそう言い残すや否や、脱力した私の体を簡単に引き寄せた哲史は、強引に歩き出す。
足をもつれさせながら、されるがままに私の体は哲史に連動した。

「待って、まひるちゃん!」

背後から届いた声に、哲史は一瞬動きを止める。そして体半分だけ振り向いた。

「俺、本当に君のことが……」
「久島さん、謝罪は要りません。今後一切連絡しないでください」

再び体が宙に浮くように、半自動的に動き出す。
どうしていいか分からずに。私はただ必死で足を動かしながら、哲史の右手の白い湿布を、気が遠くなる思いで見つめた。

駅のホームで電車を待つ間も、車内で吊革に掴まる間も。
哲史は無言だったので、私はその空白に口を挟めずに呆然としていた。
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