姉弟ごっこ
猶予なんてなかった。
哲史が私にキスをした。柔らかい唇から、隙間なく微熱が広がる。

『それにほら、結構役に立つよ?こっからここまでねぇちゃんの陣地ね、とかさ!』

偽物の姉弟のような、幼馴染みという優しくて生温い隔たりであったその防波堤が、崩れて。
感情の波が、一気に流れ込んでくる。

「……っん」

顔から火が出そうなくらい、恥ずかしくてたまらない。なのに、押し返せない。だって、正気でいられるわけないもの。

指先から心臓まで、全部。
どうにかなりそうなんだ。

紅潮したであろう頬と、羞恥で潤んだ目を見て哲史は、眉を下げて穏やかな顔付きで、

「俺以外の前でそんな顔すんの、禁止ね」

と言った。

懇願されても、私だってこんな恥ずかしすぎる状況でなっちゃったこんな顔を、誰彼構わず披露したいなんざ思わないって。
という長台詞をすらすら言えない代わりに、私は目を逸らして俯いた。

「これ以上はやめとくね。いちお、ねぇちゃん傷心の身っぽい感じだし」

っぽい感じ?
いちお、もなにも、裏切られて傷心の身であるに間違いないんだけど。
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