平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
 ◇ ◇ ◇

大手住宅設備メーカーを親会社に持つ、正社員四十人ほどの小さな下請けの会社で働く女子平社員のわたし。

周りを見渡しても、ベルトの上にお腹が乗っているようなおじさまや、出向させられたせいで不機嫌な顔をいつも貼り付かせている中年男性などなど。
ちょっとでも「おっ?」と思うような人はとっくのとうに売約済みだ。
そんな環境で、マンガや小説のような御曹司や青年実業家(しかもイケメン)と出逢うチャンスなどあるはずはない。

「礼子(れいこ)ちゃん、欲求不満なんじゃないの? そんな妄想全開の現実離れした夢をみるなんて」

お昼休み。会議室という名の休憩室で3年先輩の吉井(よしい)さんに今朝の夢の話をしたら、ジト目で見られてしまった。

「そりゃ、就業年数と彼氏いない歴がほぼいっしょですけど」

ということはもうすぐ4年か。あらためて指折り数えてみれば、よけいに落ち込む。

ふいに今朝会った新しい住人さんを思い出して、頭をブンブンと振る。
ゴミ置き場から始まる恋? それこそ夢物語のエピソードじゃないの。そんな非日常、平凡なわたしには似合わない。
ああでも、ゴミ置き場ってのはある意味すごい現実的かも。

やけくそ気味に、出勤途中のコンビニで買ってきた玉子サンドに齧りつく。その様子を見て、幕の内弁当の里芋の煮っ転がしを箸で摘まんだ吉井さんが首を傾げた。

「あれ? 今日もお弁当じゃないんだ」
「ええ。なんか、前と味が変わったような気がして。とくに、煮物とか玉子焼きとか」
「そう? 私はぜんぜん気にならないけど」

美味しそうに里芋を頬張る彼女に、曖昧な笑みを返す。
誤解しないで欲しい。不味いわけじゃないし、わたしは味にうるさいグルメでもない。
ただなんとなく、入社以来親しんできた味と違う気がしてモヤモヤするだけ。

せっかくのランチをそんな気持ちで頂きたくないから、最近はもっぱら当たり障りのないコンビニのお世話になっていた。

ウチの会社に届けてくれる仕出しお弁当屋さんは、変わっていないはずなんだけど。

「でも、そろそろお財布的にキツいかも」
「ああ~、仕出しだと会社から補助金が出るからねぇ」

ずずっと出がらしのお茶を啜りながら吉井さんが、しみじみと頷いていた。
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