君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
中尾さん、自分の胸の内をあたしと凱斗に打ち明けたことで、少しは気持ちが楽になれたのかな?
もう一度中尾さんと話してみたい。
それで彼女が救われるとは思わないけど、彼女の中の、なにかが変わるきっかけになるんじゃないかな?
亜里沙もメモ用紙を覗きこんで、ふふっと小さく笑う。
「奏、知ってる? 中尾さんって陸上部の期待の新星なんだって」
「へー、すごいね!」
「今度大会があるらしいから、一緒に応援にいこっか」
「うん! 行こう行こう!」
素晴らしく劇的な変化なんて、ない。
でもいつの間にかまた、こんな風な小さな関わり合いがうまれている。
世界って恐ろしくて、複雑で、不思議だね。
革靴を履いて玄関のガラス扉を通り抜け、階段を降りたとき、あたしは横から近づいてくる気配に気づいて、なにげなく振り向いた。
そして……目を見張った。
「向坂」
そこに、凱斗が立っていた。
青い傘を差して。
空には薄灰色の雲が浮かんではいるものの、ほとんどは透き通るような青空が広がり、雨が降るような気配は微塵もない。
それでも凱斗はまったく気後れした様子もなく堂々と傘を差して、あたしの目を見て言った。
「雨が降るまでなんて、とても待てない。いますぐ俺と相合傘で校門を通ってくれ」