諸々の法は影と像の如し

 ゆらゆら揺れる灯に合わせ、二つの影が揺れている。
 洛外の蘆屋屋敷の一部屋。
 道仙は脇息に寄りかかり、前に平伏している惟道を見た。

「どうじゃ、首尾は」

 道仙の問いに、惟道は僅かに頭を上げただけで、依然下を向いたまま、抑揚のない声で答えた。

「糺の森は仕込みが出来ませぬ。毎日陰陽師が浄化して回っております故」

「陰陽寮か。忌々しい奴らめ」

 吐き捨てるように言い、道仙は、ぱし、と手に持っていた扇を膝に打ち付けた。

「やはり内裏を狙ったほうがいいか。どうせあのような物の怪、今の奴らに抑えることなど出来ぬ故、騒ぎを大きくする目的もあって宮のお成りを狙ったが。仕込みが出来ぬでは、あ奴を呼び込むことは出来ぬな」

 ぶつぶつと言い、道仙は顎鬚をしごきながら考える。

「しかし内裏を襲うにしても、ネタ元があれではな……。すぐに宮中へ入り込めるほどの力はないし。そうじゃ、当日は皆賀茂社に気を取られておる。その隙に、穢れを式に運ばせるか。いつもは陰陽寮の奴らに嗅ぎつけられるが、当日であれば気付かぬであろ」

 そう言って、道仙は懐から何枚かの紙を取り出した。
 それを惟道の前に置く。

「これに仕込んで内裏に放て」

 ちんけな式神だ。
 確かにこの程度の作りの式、陰陽寮に入りたてのひよっこでも看破できるだろう。

 しかも飛距離もない。
 こんな精度の低い式では、内裏の結界も越えられないのではないか。

「何、式は内裏のすぐ傍にあればいい。そこまで行けば、あの物の怪であれば人の臭いに釣られて中に入ろう。奴にはそうそう結界も効かぬ」

 式の精度を誤魔化すように、道仙が言う。
 道仙にはそもそも、そういった能力がさほどないのだ。

 だが惟道は、黙って前に置かれた式神を手に取った。
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