諸々の法は影と像の如し
第十六章
「章親っ」

 いきなり妻戸の向こうから呼ばれ、章親は驚いて戸に駆け寄った。

「魔﨡? どうしたの」

 簀子に出ると、少し離れたところに魔﨡が立っている。

「入って来ればいいじゃない。結界、もしかして越えられない?」

「そうではない。穢れを付けたまま中に入っては、結界の意味がなかろう」

 手招きする魔﨡に近寄りながら、え、と章親は彼女を見た。
 魔﨡は、章親の目の前に、ぬっと開いた手を突き出す。

「この手に穢れが付いてしまった」

 言われてみれば、かなりの穢れが感じられる。

「どうしたのさ。何か触ったの?」

 手早く魔﨡の浄化をしながら言うと、魔﨡は、えへん、と胸を張った。

「人食い鬼と一戦交えたのよ」

「えっ……て、ええっ! 見つけたの?」

 驚いて、章親は魔﨡の身体を、ぽんぽんと叩いた。
 見たところ怪我はないようだが。

「大丈夫なの? 何ともない?」

 ぽんぽんと章親が叩くたびに、身体が綺麗になるようだ。
 今は浄化よりも怪我の心配をしているのだろうが、意識しなくても章親は触れるだけでそのものを浄化することが出来る。
 ちょっと魔﨡は嬉しくなった。

「大丈夫じゃ。かすり傷もないわい。ただ取り逃がしてしまったのは惜しいな」

 にこ、と言うと、やっと章親は息をついた。
 そして、最後に魔﨡の錫杖もきちんと浄化すると、部屋に促す。
 部屋に腰を落ち着けてから、魔﨡は先の出来事を話した。
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