諸々の法は影と像の如し
第十八章
「さすが陰陽師の書庫ですね~。興味深い書物がいっぱいで、飽きません」

 宮様を家に迎えて、すでに三日。
 その間章親は、とにかくあの鬼のことを調べようと、書庫に籠ってみたのだが。

 当の宮様は、古い書物に興味津々で、何ら心配している風はない。
 毎日章親と共に書庫に行き、興味のある書物や巻物を引っこ抜いては部屋に戻って読んでいる。

 宮様の傍に付いている魔﨡は、相変わらず宮様の前であっても脇息にもたれかかってごろごろしている。
 こちらは鬼が現れなくてつまらなそうだ。

「一つぐらい、あの石を浄化しないままおいておけば良かったなぁ。そうすれば早々に鬼も現れように」

 ふわぁ、と大欠伸をしながら、魔﨡がぼやく。

「ちょっと魔﨡。怖いこと言わないでよ」

 部屋の隅、ほとんど簀子で、小さな文机に向かっていた章親が、魔﨡に言う。
 ここは寝殿の一番いい部屋だ。
 広い部屋の奥の、一段高いところに宮様がいる。

 初めはそこは御簾が垂らされ、さらにその前には几帳が幾重にも立てられていたのだが、宮様がとっとと取っ払ってしまった。
 何かあったときに、姿が見えないのは恐ろしい、ということらしいが、御簾ぐらい垂らしておいても良さそうなものだが。

 結局御簾は降ろされることなく巻き上げられている。
 章親としては女性の部屋に一緒にいるのは気が引けるのだが、宮様がここにいるのは鬼から守るためでもあるし、吉平から宮様のお世話を頼まれていることもある。
< 204 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop