諸々の法は影と像の如し
「守道。蘆屋屋敷に行くの?」

 章親が嫌そうに言う。

「いや……惟道に書物を調べて貰えればいいんだが」

 無用な争いを避けたいのは守道も同じだ。
 行きたくないのは同じである。

「俺は道仙がどの部屋をどう使っているのか知らぬ」

 二人の期待を打ち砕くように、惟道がぽつりと言った。
 屋敷の掃除なども惟道がしているが、道仙は基本的に臆病だ。

 己で鬼を植え付けた惟道のことも、心の底では恐れており、必要以上に傍に寄らない。
 道仙が命じた、屋敷の一部しか惟道は出入りしないのだ。

 別に結界が張られているわけではないので、惟道が入ろうと思えば入れるのだが、惟道にとっては興味がないことなので、どうでもいい。
 不気味なところのみ差し引けば、惟道は実によく出来た使用人であった。

「そのようなものを探して、何をするというのだ」

 訝しそうに言う惟道の言葉に、何故か魔﨡が、ずいっと割り込んだ。

「そうじゃ。何もそのような回りくどいことをせずとも、今この場で鬼を呼び出せばいいではないか。我が潰してくれよう」

「う、いや。あのね、鬼を叩き潰したとしてもだよ、惟道殿にかけられた呪がどうなるか、わかんないでしょ。惟道殿まで叩き潰されちゃうかもしれないし」

 言いながら想像し、章親は一人青くなった。
 もしかすると、一体化しているかもしれない。
 一方が死ねば、一方も死ぬという関係なら、下手に鬼を滅するわけにはいかないのだが。
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